ふたり旅(公文健太郎 ✕ 山口誠)

京都 大覚寺 大沢池

大覚寺はもともとは平安時代に嵯峨天皇の離宮としてつくられたものです。そのときに中国の淡水湖としては2番目に大きい洞庭湖を模して、人工池として造営したのが大沢池です。嵐山を借景としていて、池の周囲は1kmほどあります。国指定名勝です。

ここでは大覚寺の敷地にある池に着目しているということでしょうか。

山口
大覚寺大沢池はもともと斜面地に土手を築いて水を堰き止めたので、土手の向こうは谷地のようになり、その高低差によって水面の向こう側は隔絶されます。そして空中に浮かんでいるように見える水面となり、嵐山が借景として印象的に現れることになります。池の奥からみると、小島が近景、池の縁が中景、嵐山が遠景で明快な奥行き感も気持ちいいです。

嵐山は大沢池の西側にありますが、北側にも山々が背景として見えます。でも北側は嵐山のような池との隔絶感がなく、山の裾野が見え地続きで池と連続した地形になっているので、借景というよりは背景という方が合っている気がします。大沢池のように、多くの借景は谷地に面していることが多く、借景と庭園の間を隔絶する工夫がされています。

公文
僕はこの場所にはちょっと不思議な印象を受けました。池の水面もぴたりと止まっていて、向こうの山を見ていると当時の平和な気分が立ち上がってくるようでした。なんとなく僕がいいなと思った場所も、山口さんの視点で、ちゃんと仕掛けがあることがわかるとやっぱり面白いですよね。

今回のプロジェクトにおいて、公文さんにとってどんな光や天候が望ましかったのでしょうか。

公文
ここには2日かけて行きましたね。1日目は天候に恵まれず逆光で空が真っ白くなっていたのですが、場所がよかったので翌日も行きました。2日目は順光で雲もよかったです。被写体や状況によってそれぞれですが、逆光でドラマチックに撮るのが好きだった以前に比べると、最近はほぼ順光で撮影しています。

順光によって照らし出すほうが、このプロジェクトの写真にとって意味がある気がします。太陽の高さは別としても撮影として望ましいのは曇り、劇的なのは晴れの日。西日で順光だとなんでもないと思っているものにもスポットライトが当たる気がします。銀閣寺の向月台では斜光でしたが、光のムラがあったからこそ反応したんだとも思います。

基本的には動かないものに対して光を選びたいと思っています。このプロジェクトの写真の中にはたくさんの要素があって、人によって見るポイントが異なるから、光としてフラットになるよう心がけていましたね。水に映る雲だけを写すなら晴れていた方がいいけど、明暗がつきすぎると奥にある山や池との高低差に目がいかなくなってしまう。例えば芝生に松の木の影があるかないかだけでも、意味が変わるじゃないですか。状況にもよりますよね。

山口
やっぱり写真の力だと思いますよね。写真を撮ってもらってそのイメージが頭の中に定着していくというのが大きいです。僕にとっての大沢池のイメージは、公文さんの写真として記憶に残っていく。仁和寺だって、屋根に着目したのは雨の日に撮影した写真があるからで、現場ではこういう美しさを感じていたんだなと、写真をみてあらためて感じられるんですよね。