ふたり旅(公文健太郎 ✕ 山口誠)

東京 浜離宮恩賜庭園

1654年、海を埋め立て甲府藩の別邸が建てられ、その後、将軍家の別邸として浜御殿となりました。明治維新後に宮内省管轄となり、浜離宮に改称。埋め立てによってつくられた庭は、人工的に造成された築山はありつつも、地形全体はフラットな印象が強く、背後には汐留の高層ビル群が現代の森のように立ち現れています。その森による垂直性と地形の平坦さを引き立てせる池の水平性が調和を生み出しています。旧浜離宮庭園として、国の特別名勝に指定されています。

聞き手・構成|圓谷真唯

山口 『小石川後楽園』に行ってから、ほかの庭園について考えているうちに『浜離宮恩賜庭園』のことを思い出しました。汐留という立地柄、高層ビルがたくさん並んでいるから、これは池とビルがいい感じに組み合わさってくれているんじゃないかと予想したんです。水盤は、最初に僕だけで浜離宮恩賜庭園に行ったときにベストだと思った場所なんですよ。水平方向の水盤が大きな存在感を放っていて、垂直方向に伸びているビルに比べてはるかに小さい平屋の日本庭園が水盤に浮いている。水平は伝統的な日本庭園、垂直は現代建築、それがセットになっているのがおもしろいと思ったんですね。

このビル群に対して公文さんは文字情報を隠して撮影してくれました。その写真を見て、「なるほどね」と僕は思ったんですよ。特に日本のビルというのは看板がたくさんついていたり、何某かのサインが入ったりしていることが多いじゃないですか。だけどこの写真にはどこにも看板などの情報がなく、ビルの上部をズバっと切られている。もし僕が撮っていたら、ビルの上部まですべてを画面に入れてしまうんですよ。でも、そうすると小石川後楽園ですべてを入れ込んだ写真のようにインパクトが弱くなるというか、説明しすぎる構図になってしまう。公文さんはズバッと上部を切ってフレーミングすることで、ここで実体験として感じられるところを切り取って写真にしていて、やっぱり写真家ってすごいなと。

公文 実は浜離宮恩賜庭園には3~4回ほど行っているんです、天気のいい日や、夕方だったらどんな感じかなと。最初に行ったときはまだ何もわかっていなかったんですが、この写真が撮れたのは2度目に訪れたときですかね。山口さんからは「水盤の横の線と建物の縦の線が交わるところを写真で見たい」と言われていて、いくつかの日本庭園に足を運ぶうちにでだんだん撮影の方向性がわかってきた頃です。だったらビルの上部はいらないなと、綺麗に縦の線を出してバシッと切ったことで抽象的なものになった。人間の目だったら絞って見ることができるけど、レンズを通して、ファインダーで対峙することで、いらないものがわかってくるんです。

時間帯による光や影の具合もありますよね。

公文 今回の「旅」という形式では、それはあまり選べないんですよね。訪れたときの天気や時間帯で撮るしかない。

山口 限られた時間のなかで公文さんはどうしてこんな光が素晴らしい場面に立ち会えるのか、いつも不思議です。写真家というのはそういう一瞬を掴む力がずば抜けているんでしょうね。

公文 3~4回行って、結構いろいろやってるんですよ。山口さんからキーワードをもらって撮ったものもありますし、反射的に撮っているものもあります。このカラーコーンの写真は入口で撮影したスナップショットです。何回行ってもここで撮っちゃうんですよね。

山口 カラーコーンが立っている入口というのは、写真としてはかっこいいと思うんですが、「隣り合うマチエール」という文脈には合わないと思うんですよね。後ろにあるのは『電通本社ビル』で、フランスの建築家によって設計された現代のテクノロジーを感じる建物と、長い時間が経っている手前の石垣がいいコントラストを生み出しているのですが、そこにカラーコーンが並んでいるのはおもしろいけれど美しくはないので、当てはまらないのではないかと考えています。

公文 何度も足を運んでいて気づいたんですが、日本庭園って松がとてもおもしろいんですよね。個人的にいつか松の写真集をつくりたいと思うくらい。

山口 浜離宮恩賜庭園は基本的に平らなんですよね。海に面していて、埋め立てている。昔は海が引き込まれていたこともあり、満ち引きがある池なんです。そんな真っ平らの敷地のなかに、立派な松が立ち並んでいるさまと、新橋のビル群が立ち並んでいるさまが似ていて、そのときはまだ「隣り合うマチエール」というキーワードは浮かんでなかったのですが、新しい人工物と自然物が並んでいるおもしろさに気づきはじめましたね。

公文 風景のなかで、一つだけ外れたものに目がいくんですよね。それが排除されていたらおもしろくない。この写真は池の水がぴたりと止まっていて、コロナ禍のせいか人が少なかったのもよかったですね。

山口 池の周りって同じトーンで縁取りをすると思うんですが、急にゴツゴツした黒い石と丸い白い石に切り替わっている。振り返ってみると、これは公文さんが見つけてくれた「隣り合うマチエール」ですね。

2021年10月27日